進藤 伸二様の声をご紹介します(公開99/9/30)
脱がない銭湯
ボクはひとりで時代屋に行くことが多い。当然、カウンターに座ることになる。カウンターの中央は、何百種類もの酒を一望できる特等席だ。思わず、心がときめく。「おー、みんな元気だったか」と、ボトルたちに声をかけたくなる。仕事が忙しくて、酒から遠ざかっていたときなどは、バーテンの目を盗んで、思わずボトルに頬擦りしたくなるほどだ(ウソです)。そして、この中央の席は、バーテンの腕前をジックリ観戦、もしくは採点できる、SRS(スペシャルリングサイド)席でもある。
カウンターと言えば、時代屋のカウンターは、一部のお店を除いてL字型になってますね。もしあなたが、カウンターのLの底辺、つまり入口付近の席に座れたときは、とてもラッキーだと思わなければなりません。なぜか。それは、カウンターの中央が酒を眺められる特等席だとすると、このすみっこの席は、唯一ズラリと並んだお客さんを眺めることのできる特等席だからです。あまりジーッと見ていると、「ナニ見てんだよ!」ということになりかねないので、チラチラッと見てみることにしましょう。
おー、飲んでる飲んでる。その姿は、壮観だ。会社帰りのビジネスマン。うらやましいぞ、ラブラブ・カップル。なぜか多い、女性の二人組。常連さんの顔も見える。みんな楽しそうだ。その顔は、ほどよく、ほどけている。日常から解放され、「あとはもう帰って寝るだけ」モードになっている。あまり行ったことはないが、銀座や麻布のバーだとこうはいかない。酔っている人はいても、くつろいでいる人をあまり見かけない。それは、これから家に帰るという仕事が残っているからだ。もちろん、時代屋で飲んでいるときも、家に帰らなければならないのだが、その精神的距離感が違う。しかも、アットホームな雰囲気が充満している時代屋は、その安心感がまったく違うのだ。
スーツを着ている人も、お気に入りの服を着ている人も、きちんとメイクしている人も、みんな裸で飲んでいる。時代屋は“ただいま”のバー。行くところと言うより、帰ってくるところ。家に帰って、ハフーとため息をつき、ネクタイをはずす、あの感じですね。でも、いくらくつろげるからと言っても、時代屋で本当に脱いではいけません。どうしても脱ぎたい人は、本店近くの銭湯「亀の湯」がオススメです。
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