まあるい人に、なろう。
「あの人も、ずいぶんまるくなったね」。もし、あなたがこんなことを言われたら、どう思いますか。ショックと落ち込む人もいれば、そうかな?と微笑む人もいるでしょう。つまり、この「まるくなった」には、異なるふたつの意味があるんですね。ひとつは、ガッカリ。その人の魅力だった毒が、すっかりなくなってしまった場合ですね。もうひとつは、サスガ!。ギスギスした角が取れて、大人になったという意味で使う。ボクの場合、よく溝の口の岩野店長に「まるくなった」と言われるのですが、これは体型のことであって、ガッカリでもサスガでもなく、アラマ?だと思われます。
で、時代屋。ここにも「まるくなった」ものがある。オン・ザ・ロックを注文したことがある人は、もうおわかりですね。そうです。氷です。ウィスキーやジンなどのスピリッツ系をロックで頼むと、大きなグラスに、まあるい氷が1個入ってくる。この氷は、バーテンさんがアイスピックを使って手作業で削っているため、表面がガタガタだ。しかし、「まるい」と言うより「まあるい」と呼びたくなる、愛嬌のようなものが感じられる。メニューにも写真が載っているので、ご覧ください。本店の中里店長に聞くと、この氷は開店前に20個ほどつくっておくそうです。数が少なくなると、バーテンさんは、ヒマを見てコツコツと内職して追加します。彼(氷)が生まれたときは、ギスギスした角があり、世間からも「あいつは、ああいう性分だからしょうがない」とあきらめられていたはずだ。それが、母(バーテン)の努力によって、見事に成長し、角が取れたのだ。真夜中にコツコツ内職していた母の苦労があってこそ、彼はまあるく成長することができたに違いない。
さて、今夜は?。そーだなー、シングルモルトの「ボーモア」を、ロックで飲ってみましょうか。いつものように、大きくまあるい彼がグラスの底に鎮座しています。最初は、あまり酒となじんでいない。12年も生きてきた酒が、生まれたての彼に圧倒され、ビックリしているようだ。それが、ジワジワ仲よくなり、ウィスキー独特の香りが漂いはじめるころには、ザラザラがやや滑らかになってくる。そのまま放っておくと、水面に沿って赤道のような線が入ってしまうので、ときおり指で彼を転がしてあげましょう。彼は目を回すどころか、うれしそうにクルクルと回転します。そんなこんなしていると、あら、もうお酒がない。もう一杯。同じ酒を注文すると、やや小さくなった彼の体に合わせて、グラスもひと回り小さくなる。これが、うれしい。人間は成長すると大きくなるが、彼は成長すると、どんどん小さくなる。せっかく父(お客さん)が小さく育てた彼のことを、母は見捨てたりしないのだ。酒がすすむほど、彼はどんどん小さくなる。最後に、丸ごと口に入れて、ガリガリとかじりたくなる。しかし父は、我が子を千尋の谷に突き落とすがごとく、別の酒を注文するのであった。
追伸:時代屋のスタッフのみなさん、世紀末本番ですが、ことしも一年、おいしいお酒をよろしくお願いします。